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『りゅうおうのおしごと!』 がさらに楽しくなるおすすめ本 3冊の話

盛り上がっておりました、将棋三段リーグ。今日すべての日程を終えたようです。

四段昇格された服部さん、谷合さん、おめでとうございます。

西山さんは次点。お疲れさまでした。いろんなプレッシャーがあった中での快挙、すごいなあとただただ尊敬するばかりです。

 

「誰もやったことがないこと」を目指す方は尊敬します。

自分なんかは、よくわからないうちにあと半年もせずに32歳になりそうです、ちょっと悲しい。

 

というわけで今日は「りゅうおうのおしごと!」にスポットを当てた記事です。

既刊12巻読み終わりました。

りゅうおうのおしごと!【電子書籍】[ 白鳥 士郎 ]

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感想(1件)

今回致命的なネタバレはほぼないと思いますので、まだ未読の方も是非ブログを読んでいただけると嬉しいです。

 

冒頭1巻のあらすじはこちら。

史上最年少・高校生で「竜王」のタイトルを獲得した天才棋士、九頭竜 八一(くずりゅう やいち)は現在絶不調、泥沼の11連敗。そんな八一の元に住み込みで弟子入りしたのは将棋を始めたての女の子・雛鶴あい 9歳。二人を中心に、熱くて切ない将棋の世界を描く!

 

みたいな感じ。設定だけ見たら実にラノベっぽいんですが、ラノベってよりは全年齢向け将棋小説といった方がいいかもしれません。

 

作者は白鳥士郎さん。将棋については監修をきちんと入れて整合性をとるだけではなく、ご自身も将棋のこと、将棋を取り巻く人間ドラマをこれでもかというほど取材したこと、そして将棋にまつわる人間ドラマを描きたい!というのがひしひしと伝わってくる作家さんです。

 

ここからは私の想像にすぎませんが、「ラノベを書く上でテーマが将棋になった」というよりも「将棋小説を書きたいので、ラノベにしてみた」という感が強く、ラノベのお約束的なものを踏襲しつつも、芯のあるテーマがとても熱い作品になっています。おすすめです。

 

登場キャラクターはラノベの中では個性がぶっ飛びすぎず、控えめ。そのためこうした小説に慣れていない方でもそこまで抵抗なくスッと入れると思います。スポットが当たるキャラクターも巻によって50代から9歳とバラエティに富んでおり、読まれる方の年齢によっても、感情移入できるキャラクターが違う気がします。

 

それとヒカルの碁と同じく、将棋のルールとかわかんなくても読めます、たぶん。

 

今回は、そんな「りゅうおうのおしごと!」をさらに100倍(誇張)楽しく読むための

おすすめ書籍のご紹介3本。それでは早速行ってみましょう。

 

『将棋の子』

まず1冊目。

将棋関連の著作として、名著と名高い一冊。将棋雑誌の編集長を務めたこともある大崎善生さんの作品です。

将棋の子【電子書籍】[ 大崎善生 ]

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感想(0件)

 

りゅうおうのおしごと!」6巻から12巻は主人公の姉弟子、空 銀子(そら ぎんこ)が、初の女性プロ棋士になるために、プロの養成所、奨励会で行われるリーグ戦を戦っていく姿を描いています(三段リーグと呼ばれています)。

実際の将棋プロもいくつかの例外を除いて、このリーグ戦で好成績を残すことでしかプロになれません。

 

ところがこの奨励会、地獄のような場所と言われています。いくつか要因があるのですが、大体以下の通り。

  • 三段リーグは1年に二回、リーグ戦トップの二人しかプロ棋士になれない。
  • 26歳までにプロにならなければ、奨励会を退会させられる(例外規定あり)
  • そのため今まで将棋に全身全霊をかけてきた人間がいきなり社会に放り出されることになる
  • 以上①~③を全員が背負った状態のまま一対一で将棋を指さなければならない

 

三段リーグは天才と呼ばれたプロの卵全員が、プロになりたい・なるしかないという強烈な思いをもって戦う場。そのため、勝つことがなによりも最優先になります。

りゅうおうのおしごと!」でも相手が心臓発作になるかもしれないから、たとえ負けがわかっていても、ギリギリまで粘るといったエピソードが語られています。

 

さて、『将棋の子』ですが、この三段リーグを突破できず、結局自分には将棋の才能がなかったのだ、と奨励会を去っていった方たちの『挫折とその後の人生』を追ったノンフィクションルポです。全員が本気だったからこそ、夢破れた時の去り際と、その後の人生が本当に切ない。羽生善治さんや藤井聡太さんの活躍が、華々しく語られる一方で、結果的にその踏み台になっていった人たちの姿が生々しく描かれています。

 

りゅうおうのおしごと!」を読む前であれば、奨励会の厳しさや切なさが予習できると思いますし、読後であれば登場人物たちが何をかけて戦っているのか、より深く知ることができると思います。おすすめです。

『聖の青春』

同じく、ノンフィクション。同じく大崎善生さんの著作(こちらはデビュー作)です。

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こちらは一人のプロ棋士、『村山 聖(むらやま さとし)』の生涯を追った作品。

 

村山さんは幼いころから命に係わる重大な病気を抱えており、入退院を繰り返しながら29歳でこの世を去りました。しかしそのハンデをものともせず、当時全盛期だった羽生さんと互角の戦績を残す大天才です。

 

この村山さんの生涯を将棋編集の立場から追ったのが『聖の青春』になります。

 

作中で村山さんは、ひげは伸ばし放題、爪も伸び放題、趣味は少女漫画と、奇人の側面もありのままに描かれます。一方で、入院中に医師の言うことを聞かず抜け出して対局に行こうとしたり、路上で倒れても這って対局に臨んだりと、文字通り命をかけて将棋を指す姿勢が生き生きと描かれています。

 

この著作で特に目を張ったのは、村山さんのプロ意識と、決して村山さんを「いいひと」として描かない、等身大の『村山 聖』を描く大崎さんの姿勢です。

 

将棋のプロとは何か、という一つの到達点と思います。こちらも是非。

 

そういえば『聖の青春』は数年前に映画化されました。主演の村山役を松山ケンイチさん、最強のライバル羽生役は今なにかと話題の東出さんが演じておられます。お二人の演技が大変すばらしく、見ごたえ抜群なのですが、おそらく二時間では足りなかったのか、原作を読まないと何が何やらわからないまま終わってしまう恐れがあるので、まずは原作を読んでから映画を見ることをお勧めします。

 

『赦す人』

これは、半ば番外編です。こちらも大崎さんの著書。結局全部大崎さんの本なんですが。

この作品もある人物にスポットを当てたノンフィクションですが、その人物は、厳密には純然たる将棋指しではありません。作家です。

 

その人の名は『団 鬼六』

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感想(0件)

 

花と蛇』といったSM官能小説を書き続けた、異才の小説家です。

 

で、なんで団さんのノンフィクションを紹介するかというと、「りゅうおうのおしごと!」の2巻に、明確に団さんをモデルにしたキャラクターである「SM小説家 鬼沢 談」が登場するからなのですが、初めて読んだとき盛大に笑わせてもらいました。そんなとこまで将棋界リスペクトしてんの!?と…。わかる人にはわかる、ニヤリとした演出ですね。

 

話は元に戻って、団 鬼六さん。実は将棋をこよなく愛し、アマ六段の実力者。プロアマ問わず多くの棋士をかわいがり、将棋関係者には慕う方も多かったといいます。

そんな団さんの生涯をルポしていったのが『赦す人』

 

全編通して、少年時代に縛られる女性を見て興奮した、とか、4億円の大豪邸を立てたが、借金により差し押さえられて競売にかけられた、とかその生涯はめちゃくちゃなのですが、一番驚いたのは団さんが一時期学校の先生をやっていたこと。学校の先生をやりながらSM小説を書くという不思議な生活をしていたそうです。そんな無茶苦茶な団鬼六の人懐っこくて、めちゃくちゃで、ちょっとわがままだけれども、みんなに好かれていたのがわかる、名著になっています。

 

ちなみにこちらは、団さんの長女の方が書いた回顧録

www.shinchosha.co.jp

この時点でかなり面白いのですが、是非『赦す人』も読んでみてください。将棋というものを別角度から見ることができるかと思います(本当か?)。

 

と、そんなわけで「りゅうおうのおしごと!」をより楽しむ3作品紹介いたしました。

自分は「りゅうおうのおしごと!」以前にこちら3作品読んでいたため、よりストーリーに没入することができたと思っています。読んで損なしです。

 

最後に「りゅうおうのおしごと!」についても少しだけ(こちらはまた別枠できっちり感想など書きたいと思っています)。

 

作者の白鳥さんは、おそらくですが(おそらくって毎回言ってるな…)天才の活躍もさることながら、凡人の『挫折』や『あがき』『苦しみ』みたいなものをとても大事にする優しい方なのかなと思っています。

 

それは女流棋士になれずに苦しむ八一のお姉さん役、桂香さんや、天才棋士の八一になんとか追いつこうとする銀子のようなキャラ造形を見ていて思うことです。

 

たぶん、僕らのほとんどは凡人です。天才の活躍を見ていて楽しいという気持ちも、もちろんありますが、僕ら凡人が少しでも勇気づけられる物語を描く、白鳥さんに心から敬意を表します。