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2020年にもなって今さらWHITE ALBUM2をプレイした話~その1~

本当に何を今さら、という感じも否めませんが、WHITE ALBUM2を5月18日からプレイしていました。ゲームの初出が2010年なのでなんと、10年の時を超えている。ちょっとびっくり。

 

きっかけは、なんとなく物語に飢えていて、かつ緊急事態宣言もそろそろ明け、出社が始まりそうということで、それより先にどっぷり物語に浸かれるうえに少なくとも全部クリアするのに5日はかかる読み物をしたかったというところが大きいかもしれません。

 

で、どうせなら、まだやってない名作!ってことで、シナリオ 名作 ゲームとかぐぐって、たどり着いたのがWHITE ALBUM2。

 

曰く「10年に一度の傑作」

曰く「ノベルゲームの到達点」

曰く「ターゲットがオタクにも関わらず痛々しいほど人間をリアルに描き出したドラマ」

 

こんなん言われたらちょっと心動かされるじゃないですか。いやいや、言うて、どう頑張ってもいわゆる恋愛ノベルゲーでしょ?「Fate」的な殺し愛みたいな要素もないし「ランスシリーズ」のゲーム性も無いんだからまさかそんな……。とか思ってたんです。

 

本当に申し訳ない。そんなこと考えていた私が愚かでした。

確かにノベルゲー史上すっ飛ばして、自分が触れたあらゆる媒体の物語の中でも稀にみる傑作でした。

 

 

5/26に完全クリア。

 

クリアまでの推定プレイ時間50時間ほどだと思いますが、読み進めれば読み進めるほど打ちのめされました。そして全てを読み終わった後の喪失感とやるせなさが本当にひどい。クリア後半日くらい、ゲームの世界から帰ってこられませんでした。

 

これを『エロゲだから』と言って敬遠するのがマジでもったいなく、あまねく人類にオススメしたいのですが、あまりに物語に血が通いすぎていて、精神状態が良好な時にやらないと、あっちの世界から帰ってこられなくなる危険性があり、安易にオススメもしにくいというのが正直な感想。

 

というわけで前置きが長くなりましたが、本日はWHITE ALBUM2の感想その1。

その1では各章に行く前に、全体的な物語としての感想をつらつらと書いていきたいと思います。

 

ネタバレもあるので未プレイの人はここで回れ右が無難だと思います。プレイしたくなった18歳未満の良い子はコンシューマー版でどうぞ。

 

1・春希は本当にクズか?

良くも悪くも、春希の行動がこの物語のカギを握っていたことは間違いありません。本当に自分が好きだったかずさからの好意に気づかず、ズルズルと雪菜の好意を受け入れてしまうのがそもそもの悪夢の始まりではあるので。ただ、時たまコメントなどで見る春希はクズ、という感想には肯首出来ないなあというのも本音です。

 

だって、脈が全くなさそうな(春希視点)本命と、めっちゃ美人でめっちゃ器量よしの高嶺の花がめっちゃ好意寄せてくれた時に、断れるかって言われたらかなり怪しい気がするんですよね。春希的には雪菜のことも気になる女の子だから。

 

なので『真正のクズ』というよりも、何事にも誠実にいようとして、誰からも嫌われないようにして、それでも心の中では一番好きなのはかずさ、という状況と本人の生来の気質が本当に悪いほう悪いほうに進んでしまった物語だとは思うんですよ。

 

ICで本作を春希が行動して終わらすためには、雪菜を振ってしまうか、かずさをにべものなく見捨てるかのどっちかだったかな、と。

 

でも春希の思考回路的には、かずさを選ぶことは雪菜と付き合っていたにもかかわらず「一番はかずさだった」と認めることになり『雪菜にもかずさにも不誠実』。一方「かずさを見捨てれば」自分の気持ちに嘘をついたまま雪菜と付き合っていくことになり、それはそれで『雪菜にもかずさにも不誠実』という。

 

誠実になれない自分が嫌で、相手を傷つけることにも臆病で、その結果どっちにもいい顔をしてどちらも傷つけて、さらに動けなくなっていく。

 

いやこの期に及んで誠実もクソもないやろって話でもあるんですが、でも学生なら仕方がないかな、という思いもちょっとあったりします。社会人パートでもそれが5年間分の積み重ねなのかもしれないなあ、と少しだけ春希の気持ちがわかるので、春希に対しては同情的です。

 

ただ、面白いな、というかこれは作者の方の本当に上手なところだと思うんですが、春希の傷つけ方のプロセスが雪菜とかずさで全然違うんですよね。

 

『雪菜を傷つける』時は、春希の「かずさが一番好き」という本能的な部分が根源にあって、「雪菜のことは好きだけど一番好きなのはかずさ」。それを行動として雪菜に見せてしまう。大好きな人の一番になれないのに、優しさや責任感で付き合われている感覚。これ雪菜にとってはものすごい屈辱なような気がします。

 

一方で『かずさを傷つける』時は「雪菜に対して(人として)悪い」という春希の倫理的観念が根源にあるんですよね。ありていに言えば「かずさのことが一番好きだけど、その考え方は雪菜に悪いからお前とは付き合えない」みたいなことをかずさに言ってしまうくせに、行動はすごく思わせぶり。かずさにしてみたらお前はじゃあなんなんだよ、と。

 

二つを見比べると、春希の一番はやっぱりかずさなんですよ。誠実でいたい、というのが春希の願いなんですけど、じゃあだからって言って、例えばかずさに暖かい家族がいて、友達もいてという状況だったら雪菜に取った態度を取るのかって言われると絶対そんなことないんだと思うんです。やっぱりかずさを優先してしまうんですよね。

 

春希が卑怯だな、と思うのはその気持ちを全面に押し出さずに5年近く雪菜と相対してしまったことかな。しかも、社会人パートでは「かずさがこんなにもひとりぼっちで、俺しかいないんだ」ということを途中まで免罪符にするんですよね。「だから春希という人間はかずさを見捨てることが出来ないのだ」と。だから仕方ないだろ?と。そういう意味ではちょっとダメな人間ではあるんですが、それは必ずしも優柔不断なクズではないと思っています。

 

2・とにかくテキストに血が通いすぎている

と、まずは春希はただのクズではない!という謎の弁解から始まりましたが、この物語で本当に特筆すべきなのは主人公・春希の地の文章から各キャラクターの言葉まで、全てにおいて「こいつならこう考えるだろうな」と思える必然性と、心の揺れ動きを伝える絶妙なワードセンテンスが光っている感じがしました。

 

なんとなくありそうなセリフや行動を書くだけだとこうは絶対なりません。とにかく一言一行動すべて考え抜かれている感じがします。それを自然になんの作為も気づかせずに展開させてしまうのは作者の方のたぐいまれな文章センスとしか言いようがないと思います。

 

例えばcodaで春希がかずさのコンサートに行かず、大阪の雪菜の元へ向かって行ってしまうシーン。これはかずさに心が向いてしまうのを「倫理的に」避けようとした、と考えることもできますが(これでもそのために雪菜に会いに行ってるからそこそこひどい)、「コンサートをが終わったらおしまい、だから見に来てくれ」というかずさの言葉がその前にあると考えると「かずさとの関係をおしまいにしたくなかった」→「倫理的にも会わないほうがいいからちょうどいい」というさらに重い別の本心も見えてくる気がします。雪菜もそれに気づいているから、春希の心をより自分のもとに引き留めるために、乱暴に抱かれている、とも言えます。

 

一方、そんな駆け引きなんか知ったこっちゃない(出来ない)、かずさにしてみれば、またも「自分のことが好きだったはずの男が、今の彼女の元に行って自分を傷つける。そこまでするのか?」となってしまう。

 

この一連の流れが、IC・CCと散々3人の心情を積み重ねたことで、なんの違和感もなく受け止められてしまうのは、作者の力量以外の何物でもないと思うんですよね。

 

別にこのシーンだけでなく、全てがそういう風に意味のあるシーンになっている。よほどキャラクターを愛していないとこうはならないと思います。

 

とまあ今日はざっくりとした感想を書くつもりだったのでここまで。次回からIC・CC個別ルート・codaと順に感想を書きたいと思います。